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イギリスは収入は高いが税金も高いから、結局、プラマイゼロ?

イギリスをはじめ欧米の給与水準は日本と比較して非常に高いです。しかし、それは「年収」や「賃金」の話に限られ、「所得」や「手取り」においてはあてはまらないのではないかという疑問が生じます。

給与水準が高くても、手元に残る金額が少なくては、実質、暮らしは豊かになりませんよね。

所得税はイギリスが高い傾向

以下がイギリスの所得税の税率と日本の累進課税の所得税の税率率です。

所得区分税率
£12,571~£50,27020% (基礎税率)
£50,271~£150,00040% (高税率)
£150,001以上45% (追加税率)
スコットランドを除くイギリスの所得税の税率1
日本の課税所得金額税率
195万円以下5%
195万円超 330万円以下10%
330万円超 695万円以下20%
695万円超 900万円以下23%
900万円超 1,800万円以下33%
1,800万円超 4,000万円以下40%
4,000万円超45%
日本の所得税の税率

イギリスでは、アルバイト程度で稼げる金額でイギリスでは20%の税率が適用されてしまいます。

一方、日本の場合、累進課税であるため、フルタイムで会社員をすれば日本でも300万円以上は収入が発生するといっても、195万円までは5%、330万円までは10%で、それを超えた給与のみ、20%の税率が適用されるので、高所得者ではないかぎり、所得税そのものは日本のほうが低いと考えることができます。

社会保険料

給料から天引きされるものは所得税だけではありません。社会保険料や住民税も考慮する必要があります。

イギリスにおいて社会保険料に該当するのはNational Insuraceです。

日本の社会保険料のほうがNational Insuranceと比較して税率は高いのですが、会社員の場合、労使折半であるという特徴があります。一方で、健康保険料や厚生年金、雇用保険とそれぞれ独立に徴収されるため、日本のほうが高額になる傾向があります。特に厚生年金は高いですね。

所得区分(週あたり)料率
£242~£9678%
£967.01~£1,2502%
£1,250.01以上0%
イギリスのNational Insurance2
区分保険者保険料率
健康保険全国健康保険協会(協会けんぽ)または健康保険組合標準報酬月額の約10%(労使折半)
厚生年金保険日本年金機構標準報酬月額の約18.3%(労使折半)
雇用保険雇用保険事業標準報酬月額の約0.3%(労使折半)
日本の社会保険料3

一方、イギリスの場合、給与が少ない人も高い人も、大差ないNational Insuranceを支払うという特徴があります。つまり、低所得者の負担が大きいということです。

日本の社会保険料にも標準報酬月額に上限がありますが、健康保険料の上限は139万円、厚生年金は65万円では、上限に達する給料をもらっている人は少数であるため、基本的には月収が増えれば保険料も高くなり、給与が高い人がより多くの保険料を支払うことになります。

住民税は日本が高い

イギリスではカウンシルタックスが日本でいうところの住民税に該当します。

大きな相違点は、カウンシルタックスは住居1件につき1回の支払いということです。日本の住民税のように家族全員がそれぞれ支払うものではありません。よって、例えば、イギリス人の若者がイギリスでは実家暮らしをしていたらカウンシルタックスを支払う必要はありませんし、シェアハウスをしていたらカウンシルタックスを支払っているのは建物のオーナーです。

ロンドンの中心地・ウェストミンスターの平均的な価値の住居(バンドD)で、年間約£1,800です。もう少し価値が低い住居や、ウェストミンスターのようなもっとも家賃が高い地域でなければ、カウンシルタックスはどんどん減少していきます。

一方、日本では収入がある人は全員が住民税を支払います。住民税が非課税になるのは、年収93万円以下なので、月に8万円程度収入があれば、全員が住民税を支払うことになります。

日本の住民税の計算は非常に複雑で、市町村によっては上乗せ税もあるため、具体的な税率や計算方法は割愛しますが、月収30万程度の場合、わたしが最後に住んでいた東京都台東区の住民税は月額2万5千円程度、わたしの故郷・鹿児島県鹿児島市では1万5千円程度の住民税になります。

給与水準が低い日本において、この額の住民税はかなりの負担だと考えられます。新卒採用された2年目に住民税が引かれ始めて、生活が非常に苦しくなる若者が多いですよね。

一概に所得では比較できない現状

日本の場合、イギリスとは異なり、高度な教育や医療を受ける際によりお金がかかります。

日本では、学習塾に通わなくては、難関高校や難関大学の受験を突破するのは難しいですね。わたしは、教育に熱心でもない田舎の荒れた中学校に通っていましたが、そこですら中学3年生にはクラスのほぼ全員が塾に通っていました。一方、イギリスには学習塾なんてものはありません。裕福層が時に家庭教師を雇うくらいです。

大学受験で浪人をする人も多いですが、予備校も非常に高額です。一方、イギリスの大学の出願には日本のような筆記試験がないため、浪人することはできますが、その期間中、予備校のようなところに通って必死に勉強するわけではありません。それよりは、とにかく入れる大学に入って、そこで良い成績を収めて、修士課程で希望の大学で勉強することができるように勉強に精を出すのが普通です。

また、イギリスでは多くの人が利用している学生ローンや補助金などの制度は日本はほとんどありません。経済的理由から大学進学を断念する日本人が一定数いる一方、イギリスではこれは非常にレアなケースです。勉強する意志があれば、大学教育を受けられます。そのため、分野にかぎらず修士号取得者が非常に多い。一方、日本では基本的に理系の一部に限られます。

また、日本の医療費3割負担の皆保険は良い制度だと思いますが、病気がちな人にとっては医療費が家系を圧迫する額に膨れ上がってしまいます。高額療養費制度があるといっても、何か大病をした場合、平均的な所得の場合でも、月8万円程度の出費となります。一方、(NHSには大きな問題があるといえど)イギリスでは医療は無料です。

アメリカの医療保険を無視しても良いのか

さらに、アメリカの例を挙げると、アメリカには国が運営する国民皆保険やイギリスのNHSにあたるようなサービスはありません。そのため、高額なプライベートの医療保険に入るしかありません。2022年の平均的な保険料は、個人で月額659ドル、家族で月額1,872ドルのようです。

アメリカ人の所得について論じる際、医療保険の加入が必須ではないからといって、月に659ドルもかかる保険料を無視してもよいのでしょうか。大企業ならば会社の福利厚生に加えられている場合もありますが、個人で保険料を支払う場合も非常に多く、もし保険未加入で大病でもしたら、文字通りホームレスになってしまいます。ほとんどプライベート医療保険に加入するのは必須だと考えられます。

アメリカの給与水準は非常に高いですし、所得税の税率もイギリスや日本よりも抑えめですが、その分、別の場所で出費が嵩んでしまいます。

課税所得帯税率
0~10,275ドル以下10%
10,275ドル超~41,775ドル以下1,027.50ドル+課税所得の12%
41,775ドル超~89,075ドル以下4,807.50ドル+課税所得の22%
89,075ドル超~170,050ドル以下15,213.50ドル+課税所得の24%
170,050ドル超~215,590ドル以下34,647.50ドル+課税所得の32%
215,590ドル超~539,900ドル以下49,220.30ドル+課税所得の35%
539,900ドル超183,647.25ドル+課税所得の37%
アメリカの独身者の所得税 (2023年)4

税が高くても幸福

またデンマークやスウェーデンなど福祉国家と称される国々があり、これらの国においては税率は非常に高いです。

福祉国家とは、国民の生活の質を向上させることを目的として、社会保障制度を充実させ、所得格差の是正や貧困対策に取り組む国家のことです。医療、教育、年金、失業保険、育児支援などのサービスを公的に提供し、国民が安心して生活できる環境を整えています。

そのため、資本主義国家といえども、収入が多くなったら、たくさん税金を支払わなくてはならなくなるため、高所得者と低所得者の生活の質に大きな開きがない傾向があります。

医療や教育といった生きるために必要なサービスを国が分け隔てなく国民に提供する国々では、税が高くても幸福度が高くなる傾向があります。

幸福度ランキング

2024年の国別幸福度ランキング5は以下の通りです。

上位10カ国

  1. フィンランド
  2. デンマーク
  3. アイスランド
  4. スウェーデン
  5. イスラエル
  6. オランダ
  7. ノルウェー
  8. ルクセンブルク
  9. スイス
  10. オーストラリア

フィンランドは7年連続、デンマークは6年連続で1位と2位を維持しています。このように、税金が高いと国から提供されるサービスも手厚く、国民全体の幸福度も高くなる傾向があるようです。

日本は51位で、G7の中では最下位でした。

イギリスは19位で、G7の中ではカナダに次いで2番目に高い順位となっています。

ポスト資本主義の在り方

どの国の制度にもメリット・デメリットがあります。パーフェクトな国などはなく、無い物ねだりはいくらでもできるので、結局、個人の状況や価値観に委ねられるものかもしれません。

リサーチを行っての個人的見解を列挙していきたいと思います。

イギリスに関して

  • イギリスの税制は低所得かつ単身者に不利
  • 単身者にはメリットがあまりない一方、家族暮らし・子持ちにはメリットがある
  • 国が提供する社会保障やサービスはそれなりによいので税率は妥当
  • 幸福度や労働環境を考慮すると、低所得者層であっても日本より生活の質は高いのではないか

日本に関して

  • 税制は低所得者に手厚い
  • ただし、学生や低所得層が利用できる公的サービスや補助は非常に限られる(所得の再分配が適切に行われていない)
  • 中間所得層になれば、イギリスと税率に大差はない

その他の国々に関して

  • スーパー資本主義のアメリカでは高所得でも低所得でも常にホームレスになる恐怖がつきまといそう
  • 福祉国家はポスト資本主義の在り方としての可能性が見いだせる

税金とは国民の幸福のために使われるために全員から徴収されるお金です。また、すべての国民が健康に生きていけるように、所得を再分配するための制度とも考えられます。

適切に税金が使われるならば、税金が高いことは悪ではない、むしろ幸福に繋がるといえる。

ヨーロッパの福祉国家の幸福度の高さは、いきすぎた資本主義を是正するひとつの結論となりうるのではないかと思います。

参考・補足

  1. https://www.jetro.go.jp/ext_images/jfile/country/uk/invest_04/pdf/uk9C010_personal_incometax.pdf
  2. https://www.gov.uk/national-insurance/how-much-you-pay
  3. https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2260.htm
  4. https://www.jetro.go.jp/world/n_america/us/invest_04.html
  5. https://sekai-hub.com/posts/world-happines-report-ranking-2024

コメント

  1. 初海秀夫 より:

    精緻な分析興味深く拝見しました。基本、日本は低所得者層には手厚い税制ですね。
    所得が上がると税率が非常に高くなる実感がしておりました。日本企業から外資に転職し、給与が倍近くになった時、所得税、住民税が非常に高い感じしました。確か住民税は年間で100万円を超えた記憶があります。今は、節税対策を日々行なっております。ブログ興味深く拝見しました。引き続きブログ拝見いたします。極東からいつも応援しております。りなさん、ありがとうございました。