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日本の平均給与では欧米の先進国では貧困レベル

昨年、わたしはロンドンに移住し、ウェイトレスとして働きはじめました。東京でおなじみのチェーンレストランのロンドン支店でのアルバイトです。

最初は週1回の勤務でしたが、初めての給料は驚くべき453ポンド。日本円に換算すると9万円以上1です。勤務時間は1ヶ月で28.85時間、つまり1日8時間以下の労働時間です。

実際の給与明細

週1で9万円ということは、週5で働けば単純計算で45万円にもなる支給額です。時給換算では3000円以上2、年収にすると540-600万円3に相当します。これは、日本の平均年収458万円、正社員の平均年収523万円4を軽く超えてしまう額です。

といっても、給料が高い分、物価も高い。物価の高さは渡英前から知っていましたが、実際に生活してみると改めて驚きました。例えば、普通のレストランでサーモンの握り寿司1貫が3ポンド(約600円)、マグロは3.80ポンド(約760円)。ティッシュペーパー1箱が2ポンド(約400円)。日本とは比べものになりません。

円安にもかかわらず、日本のブランドや日本製品も高額で、ユニクロのズボンが30ポンド以上(約6000円)、みりんが1リットル21ポンド(約4000円)と日本人の感覚からは目から鱗の金額です。

これらの価格に対して、イギリス人も文句を言っています。しかし、それでも支払っています。これができるのは、物価が上がっても、給料も高くなっているからです。

2024年4月に最低賃金が11.44ポンドに引上げられました。現在の為替レートで換算すると、時給は2200円以上になります。これにより、最低賃金で週5日、8時間働くと月収は1800ポンド以上、つまり35万円以上稼げるのです5

また、レストランで働くと、さらに収入は増えます。イギリスではレストランでの食事にサービスチャージが加算され、これは通常、シフトに入ったスタッフで分け合います。

わたしの時給は昨年の最低賃金の10.42ポンドでしたが、これにサービスチャージが上乗せされたため、支給額の30%以上がサービスチャージでした。人気のあるレストランで働けば、サービスチャージでそれなりの額を稼ぐことができます。

わたしは、日本の企業と仕事をするため、報酬のほとんどを日本円で受け取っています。円安の影響もあり、ポンドで生活費を賄うのは非常に厳しい状況です。そこで、生活費の補填のためにはじめたウェイトレスのアルバイトが予想以上に稼げることに驚きました。

しかし、日本ではどうでしょうか。ここ10年で、日本人の給与が上がったとは思えません。

日本の物価や賃金の上がり幅が他の先進国と比べて小さいことを考えると、日本の労働者の価値が低く評価されていると考えられます。

最低賃金や単純労働の場合だけではなく、高度専門家においても、欧米先進国と日本の給与格差は非常に顕著なようです。

例えば、サンフランシスコのソフトウェアエンジニアの年収中間値は23万4千ドル、東京のエンジニアは6万9千ドルで、サンフランシスコのエンジニアは東京の3.39倍稼いでいます。ロンドンでも、エンジニアの年収は東京の1.68倍です6

都市名報酬 (ドル)東京を1とする指数
サンフランシスコ234,0003.39
シアトル213,0003.09
ニューヨーク187,0002.71
シンガポール90,0001.3
上海86,0001.25
香港85,0001.23
ソウル83,0001.2
北京79,0001.14
東京69,0001
野口悠紀雄『プア・ジャパン』より改変(元文献:Levels.fyi, End of year Pay Report 2022)

また、大手企業の場合、さらに給与格差が大きくなる場合が多いようです。

例えば、米国Googleのソフトウェアエンジニアの最高年収は112.5万ドル(約1億7000万円)にも達します。米国の大手企業の報酬は日本とは桁違いで、これだけの額を日本の企業が一社員に支払えるだろうかと疑問に感じます。

企業が優秀な人材に高額な報酬を支払えないとなれば、日本の優秀な人材はよりよい待遇を求めて海外に流失することになりますし、海外の優秀な人材の流入も期待できなくなってしまいます。

また、単純労働の場合でも、若者がワーキング・ホリデーで海外に「出稼ぎ」をしにいっています。大卒の初任給は22万程度とされていますが、海外で最低賃金でバイトをしたら30万は軽く稼ぐことができます。

一度、海外に拠点を移した若年層の労働力や高度専門家の中には、そのまま日本に戻ってこないケースも多くなると予想されます。若さや技術・知識など「力」を持っている日本人が、彼らの労働力をより高く評価してくれる(高い報酬を払ってくれる)海外へ流出するのは自然流れなのではないでしょうか。

日本で生まれ育ったわたしの感覚では、欧米先進国の給与や物価が高く感じられました。しかし、1年近くイギリスに住んで、高い物価や給料は、先進国として当然の水準だと思われるようになりました。欧米先進国の物価が高いのではなく、これが「普通」で、逆に日本が安すぎると考え方が変わりました。

実際、円安によって「稼ぐ」ことができている企業はあります。特に輸出に関わる大企業はその傾向が強いですが、一方で、中小企業・零細企業は輸入コストの増加から円安によって損をしています。日本と海外の格差も大きいですが、日本国内でもますます格差が広がっていくと予想されます。

また、円安による収益の増加は、日本という「一国」または「円建て」の枠組みの中では収益が増加しているように感じられますが、範囲を広げて、国際的な枠組みの中で比較したり、海外通貨で収益を鑑みた場合、決して明るい展望のある数値ではないと思います。

また、収益の増加は円安によってもたらされたものであり、日本の技術向上やビジネスモデルの最適化によって達成されたものではありません。

2022年に米ドルに対して円安が進行した際、大手貿易会社で働いている友人が、上半期にすでに年次目標を達成して「今年はもう何もしなくていい。リラックスができる」と言っていました。

つまり、「何もしていない」のに収益は増加する。収益が増加し、ボーナスも上がったにもかかわらず、わざわざ日本の大手企業が技術革新を行ったり、新たなビジネスモデルの構築を行ったり、業務の最適化・DX化を行うとは期待しにくいと思われます。

いまだ、日本においては円安に対する楽観論が広く聞かれます。しかし、海外を拠点にしている一日本人として、円安は単純な金利差のみならず、日本の国力の低下の象徴であり、さらに日本の経済や技術革新の弊害となっているのではないかという考えが拭えなくなっています。

Lina (ライター)
早稲田大学卒業後、新卒でフリーランスのライターとして活動をはじめる。コロナ禍の期間に派遣社員、正社員(メディカルライター)を経て、現在はロンドンに在住。サイエンス・医療分野の文筆業をはじめとし、ブログやYouTubeでも情報発信中。
鹿児島出身、東京在住。趣味はテニスと史跡巡り。

参考・補足

  1. £453 × 199.44(£/¥) = ¥90,372.72
  2. £453 ÷ 28.85(時間) = £15.70(時給)
    £15.70 × 199.44(£/¥) = ¥3,129.41
  3. £453 ÷ 28.85(時間) = £15.70(時給)
    £15.70 × 8(時間) × 5(日) × 4(週) × 12(月) = £30,096
    £30,096 × 199.44(£/¥) = ¥6,007,917.44
  4. 国税庁・令和4年分 民間給与実態統計調査よりhttps://www.nta.go.jp/publication/statistics/kokuzeicho/minkan/gaiyou/2022.htm#:~:text=(1)%20%E7%B5%A6%E4%B8%8E%E6%89%80%E5%BE%97%E8%80%85%E6%95%B0,%E5%A2%97%E5%8A%A0%EF%BC%89%E3%81%A8%E3%81%AA%E3%81%A3%E3%81%A6%E3%81%84%E3%82%8B%E3%80%82
  5. £11.44 × 8(時間) × 5(日) × 4(週) = £1,830.40
    £1,830.40 × 199.44(£/¥) = ¥365,220.58
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